赤ちゃんの安全には十二分に配慮しているつもりでも、何かの拍子に赤ちゃんがやけどをする可能性は常にあります。赤ちゃんがやけどをした場合にまず大切なのは、やけどによる皮膚の状態を観察すること。
やけどの程度によっては、すぐに病院で処置を受けなければならない場合もあります。いざというときに慌てないためにも、赤ちゃんがやけどをしたときの対処方法や予防方法などを知っておきたいさまざまな情報を幅広くご紹介していきます。
赤ちゃんがやけどする状況とは?
皮膚がやわらかくデリケートな赤ちゃんは、ちょっとしたやけどでも皮膚が赤く腫れ、痛い思いをさせてしまいます。赤ちゃんがやけどをするのはどんな場面でしょうか?赤ちゃんに多いやけどの原因や状況を知ることで、やけどトラブルを防止することができます。
赤ちゃんの周辺に熱いものを置かない
赤ちゃんのやけどが多くなるのは、赤ちゃんがつかまり立ちを始める頃からですが、まだ自分では寝返りのできない赤ちゃんでもやけどをすることがあります。
赤ちゃんが寝ているからといって油断して、赤ちゃんのベッドや布団のすぐ側に、熱い飲みものを入れたカップや器を置くのは絶対にやめましょう。寝返りを打って起き上がることのできない赤ちゃんでも、手足を振り回すことはあります。手足を動かした際に熱い飲みものや食べ物を入れた器をこぼしてしまい、赤ちゃんに熱湯が降りかかるおそれがあります。
ダイニングテーブルにテーブルクロスを敷いていると、赤ちゃんがクロスを引っ張ったときに、食器の中身がこぼれてしまうことがあります。赤ちゃんの動きは予測することは困難ですが、万が一を考えて、赤ちゃんの手の届く範囲に危険なものを置かないように心がけることが大切です。
これはハイハイが出来るようになった赤ちゃんにも言えることですので、赤ちゃんの手が届く場所には危ない物を置かないようにしましょう。
電気ポットや炊飯器、やかんなどの蒸気に注意
つかまり立ちが出来るようになると、赤ちゃんのやけどの件数は非常に多くなります。つかまり立ちや伝わり歩きが出来るようになると、赤ちゃんの行動範囲は格段に広がります。
赤ちゃんがつかまり立ちをするようになったら、部屋の中をもう一度見直し、赤ちゃんの手の届く場所に、電子ポッドや炊飯器がないかどうか確認しましょう。つかまり立ちが出来るようになった赤ちゃんは好奇心旺盛。手の届く範囲にあるものすべてに手を伸ばして触れようとします。
電気ポットや炊飯器は火の出る調理器具ではありませんが、湯気に触るとやけどをしてしまいます。他にもスチームファンやホットプレートなど、大人は経験や知識で素手で触れてはいけないと理解できるものでも、赤ちゃんにとってはすべて未知のことだらけ。
何だろう?と思い、思わず手を伸ばしてしまい、ママが止める間もなくやけどをしてしまうケースも見受けられます。
低温やけどにも注意
熱湯やアイロンなどの場合は、一瞬にしてやけどをしてしまいますが、冬場のホットカーペットや電気あんか、湯たんぽ、カイロなどには、低温やけどのリスクがあります。
暖房器具やグッズは、使用上の注意を守り適正に使うようにしましょう。低温やけどはすぐに気がつきにくいため、ママが気がついたときにはやけどの症状が進行している場合もあります。
また低温やけどは完治まで長い時間を要しますので、常に赤ちゃんの様子に注意を払っておくようにしましょう。
赤ちゃんのやけどの程度について
やけどは医学用語では熱傷と呼ばれています。やけどは熱傷の一般的な呼び方で、熱湯や熱せられた油、高温の蒸気などによって皮膚に損傷が出来た状態を指します。
やけどはその症状の度合いによって三段階に分けられています。Ⅰ度、Ⅱ度、Ⅲ度の三種類のやけどの症状について、それぞれの特徴や処置の方法について詳しくみていきましょう。
Ⅰ度熱傷とは?
Ⅰ度熱傷とはもっとも軽度なやけどで、やけどをした部分の皮膚に赤み、痛み、腫れが出ます。赤ちゃんがやけどをしたらまずはよくやけどの部分を観察しましょう。Ⅰ度の熱傷の場合は皮膚に対するダメージは表皮だけに留まります。ほとんどの場合数日経つと症状は改善されます。
水ぶくれや皮膚のただれはなく、皮膚の赤みとともにピリピリとした痛みを感じることもあります。皮膚の表層のみの損傷なので、やけどした瞬間に適切な対応さえすれば、新陳代謝で皮膚が入れ替わりますので、やけどのあとは残りません。
Ⅱ度熱傷とは?
Ⅱ度熱傷は皮膚の表皮だけでなく、もっと深部まで損傷が起こってしまった状況を指します。皮膚は表皮と真皮に分けられますが、Ⅱ度熱傷の場合は真皮までダメージが到達していますので、完治するまでに2週間から時として1ヵ月程度かかることもあります。
Ⅱ度熱傷は浅達性と深達性の二つに分類されていますが、これは皮膚へのダメージがどの程度皮膚の深部まで到達しているかによって分けられます。深達性のやけどはやけどあとが残ってしまう可能性もありますので、必ず医療機関で適切な治療を受けなければなりません。
水ぶくれやただれ
Ⅰ度と異なるのはⅡ度熱傷の場合は赤みや痛みに加えて、水ぶくれ、腫れ、じくじくとした爛れが出来ること。水ぶくれやじくじくした爛れがあると、その部分が感染症にかかりやすくなります。自己判断で薬を塗ったりせずに、皮膚科の専門医の治療を受けるようにしましょう。
またやけどは症状がひどくなるほど痛みを感じにくくなり、やけどの部分の色味が白っぽくなります。
Ⅲ度熱傷
Ⅲ度熱傷は皮膚の深部にまで損傷が及んでいる状態で、色は赤みではなく白や茶褐色になります。皮膚の神経組織も傷つきますので痛みは感じません。Ⅲ度熱傷になると移植手術が必要になる場合もあり、治療は長引きます。
とにかく専門医に相談したい場合
かかりつけの病院に連絡できる場合は連絡し指示を受ける。夜間や休日は各地区にある緊急医療機関に連絡する。 厚生労働省 医療機能情報提供制度(医療情報ネット)で対応医療機関を調べて連絡する。など様々な相談機関が各地区にありますので、トラブルの前に調べておくことも大切です。
赤ちゃんのやけどの応急処置と注意点について
赤ちゃんであれ、大人であれ、やけどは応急処置が非常に重要です。適切な応急処置を行うことにより、やけどの進行を止め、症状の悪化を防ぐことが出来ます。
赤ちゃんは大人に比べると皮膚が薄いため、やけどをすると重症化しやすくなります。赤ちゃんのやけどが重症化するのを防ぐために、正しい応急処置の方法をきちんと把握しておくようにしましょう。
とりあえず冷やす
赤ちゃんがやけどをしたら、すぐに冷水で冷やしてあげます。やけどの面積が小さい場合には水道の蛇口で、面積が大きいときはシャワーで冷やしてあげましょう。
このときに注意したいのは着ている服を脱がさないこと。服を脱がしてしまうと、爛れた部分がはがれてしまうおそれがあります。
とりあえず服を着たままで冷やし、それから服を脱がせるようにします。服と皮膚が密着して脱がすことが出来ない場合は、自宅で無理やりはがさずに必ず病院で処置を受けるようにしてください。
顔にやけどをした場合
赤ちゃんの顔や頭など、水をかけることが難しい場所にやけどをした場合には、保冷剤をタオルでつつんで冷やしてあげても良いでしょう。保冷剤の温度で非常に低くなることがあります。保冷剤を直接当ててしまうと赤ちゃんの皮膚に凍傷が出来ることもありますので、注意が必要です。
氷水は使用しない
冷やすといっても氷を当てたり、氷水で冷やすことはNG。やけどの部分を急速に冷やしてしまうと体を冷やしすぎるだけでなく、患部の凍傷を招くことにもつながります。
服の下のやけどにも注意
手足や顔など露出している部分だけでなく、服の下にもやけどによるダメージが及んでいる場合がありますので注意が必要です。
赤ちゃんがやけどした!という状況下で冷静に判断するのは大変かもしれませんが、慌てているだけではだめ。どんな状況で、どのくらいの部分に熱湯や蒸気がかかったか、出来るだけ正確に把握して対応するようにしましょう。
見えている部分だけでなく、服の下にもやけどが及んでいる可能性があることを頭に入れておきましょう。
冷やす時間について
冷やす時間に関してはさまざまな意見があり、5分程度から30分程度まで幅があります。どのくらいの時間冷やすべきかは、年齢や体格、やけどの度合いなどによっても異なります。
赤ちゃんの場合は体表面積が小さいので、長い時間冷水をかけていると体全体が冷えてしまい、低体温になってしまうおそれがあります。とくに体の広い部分にやけどをした場合には、患部を冷やす時間が多めに必要になりますので、赤ちゃんの様子をよく観察しながら冷やすようにしましょう。
ちなみに日本皮膚科学会のやけどの応急処置の解説によると、冷やす時間の目安は15分から30分程度。冷やしおえたらもう一度やけどした部分をよく観察した上で、病院で診察を受けるようにしましょう。
水ぶくれは破らない
やけどをした部分に水ぶくれがある場合には、触ったり、破ったりせずに、そのまま病院に行き処置してもらいます。じくじくした爛れがある場合も同様で、やけどをした部分には触れないようにしましょう。やけどの部分は皮膚の組織が損傷していますので、ウイルスや細菌が繁殖しやすい状態にあります。
赤ちゃんの水ぶくれが今にも破れそうなときは、清潔なガーゼや柔らかいハンカチなどで患部を押さえ、病院に行くようにしましょう。水で冷やしているうちにすでに破れてしまった際も同様で、出来るだけ早く病院に連絡して指示を仰いでください。
水ぶくれの治療を適切に行わなければ、完治までにかかる時間が長引いてしまいます。水ぶくれに関しては、その状態や面積、体のどの部分にあるかによって、そのままにしておくか、それとも清潔な医療用の針で破るか、医師の判断にしたがって治療を進めていくことになります。
自己判断は禁物
民間療法的な意味でやけどに効くといわれているものを、赤ちゃんのやけどにつけるのは控えましょう。はちみつや大根のすりおろしなど、やけどに効くといわれているものはたくさんありますが、医学的な根拠があるかどうかは定かではありません。
赤ちゃんの皮膚は大人と違い、非常に薄くデリケート。しかも免疫力もまだ未熟ですので、やけどをした部分に雑菌が繁殖しかねないものをつけることは厳に慎むべきでしょう。
冷やしたあとの処置を、医学的根拠に基づかない療法を使って、自己判断で行うのはリスクを伴います。冷やしたあとの処置に迷ったら必ず病院に連絡し、専門医の指示に従うようにしましょう。
湿潤療法(モイストケア)について
昨今、医療機関においても、やけどした部分に消毒を行わず、湿潤環境にすることで症状の改善を図る治療法が盛んに行われるようになりました。これはやけどをした部分を洗うのみで消毒はせず、ラップなどで湿潤な状態に保つ療法を指します。
やけどをした部分のじくじくと出てくる浸出液に含まれる免疫細胞の力により、やけどの症状をすばやく緩和することを目的としています。また消毒をしないため、皮膚にある常在菌のはたらきも損なわれないので、病原菌の繁殖を防ぐことが出来るとのこと。やけどをした部分を決して乾燥させずに、適正な温度と湿度を保つことで、皮膚の再生を促すというのがこの治療法の根幹。
以前に比べるとこの湿潤療法を取り入れる病院も増えていますが、これはあくまでも医師によって行われるべきなので、赤ちゃんに対して軽々しい気持ちで自宅で行うことはリスクを伴います。
湿潤療法を希望する場合には、この治療法を取り入れている病院で診察を受けるようにしましょう。湿潤療法に関してはデメリットや短所もあり、すべてのやけどに対して有効なわけではありませんので注意が必要です。
すぐさま病院に行ったほうがいい場合とは?
やけどの処置は程度や面積によって変わってきます。ちょっと熱いお湯がかかった程度で、水ぶくれもただれもなく、皮膚が少し赤みを帯びただけであれば、自宅で処置をすることも出来ますが、やけどの面積が広い場合や大きな水ぶくれやただれが出来た場合には、すぐ病院で処置してもらう必要があります。
顔、頭、性器にやけどをした場合も同様、自己判断で市販の塗り薬やオイル類を塗ることはやめましょう。やけどの程度は専門医以外には判断が難しく、事故後毎週のように経過を観察しなければどの程度のダメージが生じているか判断できないこともあります。
やけどの症状が重篤な場合、命にかかわる状態に陥ることもあります。やけどの分類でⅢ度の場合は緊急に、Ⅱ度の場合でも出来るだけ早く病院に行ったほうが安心です。自分で判断できない場合にはかかりつけの小児科医や皮膚科に連絡して、その指示に必ず従うようにしましょう。
まとめ
赤ちゃんがやけどをしたときに知っておきたいさまざまな情報をご紹介しました。赤ちゃんがやけどをしやすいのはどんな状況か、万が一赤ちゃんがやけどした場合にはどんな応急処置を取るべきか、どんなふうに冷やしたらいいか、病院にいくべきかどうかなど、赤ちゃんのやけどに関する情報を備えておくと、いざというときに必ず役に立ちます。
またやけどの対処方法や応急処置だけでなく、赤ちゃんがやけどをしないような部屋の環境づくりにも気を配るようにしましょう。
参考:公益社団法人日本皮膚科学会 やけどの応急処置
参考:慶応義塾大学病院 医療・健康情報サイト 熱傷やけど
参考:日本熱傷学会「いわゆるラップ療法に対する日本熱傷学会の見解」