出産間近になると、育児についてこうしたい、ああしたいといろんな理想が出てきます。多くのお母さんが、出産したら母乳育児でがんばりたいと思います。
しかし、実際には母乳育児には大変なことも多く、全てのお母さんが実践できるとは限らないこともあるのです。母乳育児のいいことと悪いことの両面を知ることで、よりよい選択肢を選んで行けるといいですよね。
そこで、母乳育児に関するさまざまなことを詳しくご紹介していきますので、参考にしていただければと思います。
母乳育児とは
母乳育児とは、お母さんの母乳で赤ちゃんを育てる育児方法のことを言います。粉ミルクに頼らず、お母さんの母乳で育てることを指すことが多いですが、時々粉ミルクを使うこともあります。離乳食が始まり、母乳を卒業するまでは基本的に母乳一筋というのが、母乳育児の考え方です。
初乳が特に大事な理由
母乳は赤ちゃんにとって様々なメリットをもたらしますが、特に初乳が最も大事なのは皆さんご存知ですね。最近では母乳が非常に少量であっても、必ず初乳は赤ちゃんに含ませるよう指導する病院も多いですが、それは免疫力の獲得が目的です。
赤ちゃんはお母さんのお腹にいる時から少しずつ免疫抗体をもらっていましたが、初乳に大量に含まれるグロブリンAは含まれていません。
グロブリンAは腸や胃の表面全体を覆って菌やウイルスの吸収を妨げるという大きな役割があり、完全ミルク育児の赤ちゃんでも初乳を飲ませた場合と飲ませなかった場合では、その後の病気の感染確率に大きな差が現れます。初乳は、赤ちゃんの一生を左右するといっても過言ではないほど大事なものなのです。
母乳育児のメリット・利点
母乳の質の高さ 大切さ
母乳育児にこだわる理由としては、母乳の質の高さに関係があると言えるでしょう。
まず、母乳にはたくさんの免疫や抗体が含まれています。栄養面だけで言えば粉ミルクも改良され、かなり質が良くなっていますが、免疫や交代に関しては粉ミルクで補うことができません。お母さんの母乳からのみ、抗体や免疫は受け継がれるため、母乳が重要視されているのです。
食育という観点
母乳はお母さんが食べた物が血液になり、赤ちゃんへと運ばれます。そのため、お母さんが何を食べるかにより、赤ちゃんに適した栄養を運ぶことができるのが大きなメリットです。
例えば、鉄分をたっぷり含んだ食べ物を食べて赤ちゃんの鉄分補給をしたり、さまざまな食材を食べたりすることで、味覚の土台を養うことができるとも言われています。
お母さんの体調をコントロール
母乳育児にすると、お母さんの身体にとってもメリットが大きいと言われています。赤ちゃんがお母さんのおっぱいを吸うと、母乳を作り出すホルモンが分泌されて乳管を通り、赤ちゃんへと運ばれていきます。
そのホルモンは、子宮を回復させるために必要なものでもあるので、積極的に母乳を与えることで、お母さん自身の身体も回復していくのです。
母乳は、赤ちゃんがおっぱいを吸うことで反応し、作られるものですから哺乳瓶でミルクを上げているとホルモンの刺激が弱くなります。その点においても、母乳の方が母子ともに体調がよくなると言われているのです。
プロラクチンとオキシトシン
赤ちゃんを出産すると、お母さんの体の中ではホルモンバランスが一気に変わっていきます。それまでは、赤ちゃんをお腹のなかで成長させるためにエストロゲンというホルモンが活発に分泌されていましたが、その働きによりプロラクチンというホルモンの働きが抑えられていました。しかし、出産し胎盤が身体の外に排出されることで、エストロゲンの働きがおさまり、プロラクチンの働きが活発になってきます。
プロラクチンは、赤ちゃんがお母さんの乳頭を口に含み、吸い出すという刺激を与えられることで活性化されるホルモンです。このホルモンが働きかけて母乳が生成され、オキシトシンというホルモンの働きにより乳頭へと運ばれます。
このオキシトシンというホルモンは、赤ちゃんに何かしてあげたいとお母さんが思った時に分泌されるもので、子宮を回復させるのに効果を発揮するホルモンでもあるため、出産で疲労したお母さんの身体を整えてくれる役割があります。このことからも、母乳を積極的に出した方が、母子ともに健康でいられると考えられているのです。
粉ミルクとの違いは
母乳育児と粉ミルク育児では、その他にも大きな違いがあります。例えば、授乳時間においても母乳と粉ミルクでは、粉ミルクの方が短時間で終了するため、赤ちゃんとお母さんがくっついている時間が短くなってしまいます。
赤ちゃんの頃にお母さんの肌をしっかりと感じていることで、落ち着くことができますし、精神面の発達にも役立ちますから、粉ミルクの場合はスキンシップを多めにとる必要があるでしょう。
また、粉ミルクを準備するには哺乳瓶を消毒して、安全な水を用意し、粉ミルクを計量して適温のお湯を注ぎ、よく溶かしてから与えるという手間がかかります。
しかし、母乳なら赤ちゃんが欲しがるときにすぐに与えることができるため、お腹が空いたと泣いている時間が短くなるのです。
水の心配がいらない
母乳育児と粉ミルク育児では、水の心配も懸念される部分があります。粉ミルクはお水で溶かしてから与える必要があるため、安全な水を使用する必要があるからです。
水道水だとカルキや環境汚染が気になるという場合もありますし、天然水も産地によってはミネラルが強すぎることもあります。赤ちゃんに適したお水を選ばなければ、下痢が起きたり体調が優れなくなったりするので、大変です。
しかし、母乳ならお母さんの身体を通じて与えられるので、水を確保するためにあれこれ調べたり、購入したりする必要がありません。また、万が一自然災害に見舞われた時だと、水の確保が厳しくなるので母乳を飲めるように訓練しておく必要があるでしょう。
表情が豊かに
お母さんの母乳で育つには、しっかりと乳輪を吸って母乳を飲まなければなりません。哺乳瓶だとお母さんが調整して自動的に出てくるので、あまり吸う力は必要がなく、赤ちゃんとしては楽ちんに栄養補給ができます。しかし、吸い付くことがあまりないと、表情筋の発達が弱まってしまいます。
粉ミルク育児の赤ちゃんと、母乳育児の赤ちゃんを比べると、吸い付く力の強い母乳育児の赤ちゃんの方が表情筋は豊かになる傾向が強いのです。
表情筋が発達すると、SIDS(乳幼児突然死症候群)の防止にも役立つと言われているので、粉ミルク育児の赤ちゃんも、乳首を吸わせるトレーニングはしておきましょう。
母乳育児はダイエットにも効果が
赤ちゃんに母乳をあげるほど、お母さんの産後ダイエットにも効果があるのをご存知でしたか?
母乳に含まれるたんぱく質や脂肪は全て、お母さんの血液内の脂肪やたんぱく質・糖などから出来ているので、母乳をあげるとその分脂肪が消費されて知らないうちにダイエットできた、なんて事あります。
妊娠中についた脂肪は、ホルモン作用で水分を多く含み流動性があるため落としやすいのが特徴ですが、産後6ヶ月以内にこの脂肪を落とさないと体に定着してしまいます。
生後6ヶ月までの赤ちゃんは母乳がメインなので、沢山あげる度にどんどんお母さんの脂肪が減っていくという、双方にとってとてもよく出来たシステムだと思いませんか。
母乳育児のデメリット・欠点
母乳育児には良いこともたくさんありますが、その反面悪いこともあります。まず、何よりも大きいのが母乳の出方によってお母さんと赤ちゃんにストレスがかかるということです。
出産したばかりの頃は、赤ちゃんも乳頭を吸う力が弱く、お母さんのおっぱいも授乳に慣れていないため、思うように母乳が出ないことが良くあります。
母乳がなかなか出ないと、赤ちゃんの空腹を満たすことができませんし、お母さんとしても気持ちが落ち込んでしまいます。しかし、お母さんの気持ちが落ち込んでしまうとさらに母乳の出が悪くなってしまうので、悪循環に陥ってしまうのです。
母乳育児をがんばろう!と出産前から準備していたお母さんほど、最初の授乳で出方が悪いとショックが大きいようです。最初から母乳が上手く出る人などいませんから、マッサージしたり、赤ちゃんをサポートしたりしながら、気長にチャレンジしていくようにしましょう。
おっぱいが詰まる
母乳育児の悪いこととして、母乳の出が悪くなるとお母さんが落ち込んでしまうことを取り上げましたが、母乳の出が悪くなるだけでなく詰まってしまうこともあるので注意が必要です。
母乳は、乳腺を通って出るものですが、とても細いため母乳の質が悪いとすぐに詰まってしまいます。
母乳の質は、お母さんの食事に影響することが多く、脂っぽい食事が続いたり、甘いものを食べすぎたりすると血液がドロドロになり、母乳もドロドロになって詰まってしまいます。では、具体的にどのような症状が出るのか、詳しく見ていきましょう。
乳房のトラブルについて
母乳育児では、おっぱいに関するトラブルが次々と出てきます。例えば、乳腺が詰まることで起きるトラブルとして、乳房のトラブルがあるのでご紹介しておきましょう。
おっぱいが詰まり、しこりのようになる症状に「うつ乳」があります。うつ乳は、乳腺が詰まり乳房が硬くなるため、少し揉み解しながら赤ちゃんに吸ってもらうと良いでしょう。
また、乳房が張り、うっ血したようになるのに「乳房うっ積」があります。乳房うっ積は、乳房が充血しているので冷やして対処し、適度に赤ちゃんにも飲んでもらうと良いでしょう。
最後に、乳汁が乳管につまりや細菌が入って炎症が起きてしまうのが「乳腺炎」です。乳口から細菌が侵入し、炎症が起きて痛みを伴うのが特徴で、発熱することもあります。
身体を安静にして、搾乳機で母乳を定期的に出しながら様子を見ましょう。
乳頭のトラブルについて
母乳育児のトラブルは、乳房だけではありません。赤ちゃんが吸いつく乳頭にもトラブルはたくさんおきます。
例えば、「擦過傷」という症状は、赤ちゃんが母乳を飲むときの陰圧が強すぎたり、上あごや舌で擦ったりすることで起きる傷です。強すぎるマッサージをすると、乳輪あたりにも傷がつくため、優しく行うようにしましょう。
また、乳首が傷む「乳頸亀裂」も要注意です。乳頸亀裂は、乳首のしわの辺りに亀裂が生じるもので、乳首に大きな負担がかかると発生しやすくなります。抱き方を工夫し、乳首の負担を減らして、必要な場合は乳頭保護器を装着しましょう。
「水疱」は、乳首の表面にできる水疱のことで、乳管を圧迫してうつ乳の原因になることがあります。授乳や、搾乳をすると自然に破れますが、なかなか破れない時は病院で診てもらうようにしましょう。
ただ、水泡が破れた後に炎症が起きると、「乳口炎」や「乳腺炎」になりますので、薬をつけてカバーするようにしましょう。
そして、痛みが強いのが「乳管炎」です。強い炎症を起こしているので、抗生物質で対処する必要があります。悪化すると、乳腺炎になるので早めに病院で診てもらうようにしましょう。
母乳育児と食べ物・母乳のコントロール
母乳育児で育てるには、母乳を常に美味しい状態に保つ必要があります。美味しい状態に母乳を保つことで、赤ちゃんはたくさん母乳を飲みますし、一度にたくさん飲めるので授乳も楽になるからです。
美味しい母乳を出すには、毎日の食生活に気を付ける必要があります。もちろん、アルコールはご法度です。ステーキなどのお肉が大好きで、ケーキやシュークリームなど甘いものも大好物!という方には、和食中心の食生活は辛い部分があるかもしれません。
母乳育児と食べ物・アレルギー
美味しい母乳を出すためには、食生活を正す必要があるとご紹介しました。お母さんが食べたものはダイレクトに赤ちゃんの栄養になるため、バランスの良い食事が大切になります。また、できるだけアレルギー物質を含まない食事にすることも必要です。
例えば、お母さんが卵や牛乳、チーズなどの乳製品をたっぷりとると、その赤ちゃんはアレルギーを発症しやすくなると言われています。また、大豆製品に反応する赤ちゃんもいるため、豆乳やお豆腐にも気をつけましょう。
赤ちゃんがどんな食物アレルギーを持っているかは、検査でしかわかりません。離乳食をスタートすると、アレルギー反応が出て初めて知るという方もたくさんいらっしゃいますが、できるだけ授乳の頃からも控えておくと安心です。
赤ちゃんの消化器官は未発達なので、アレルギー反応が強く出る食べ物に敏感に反応してしまいます。だからこそ、お母さんは食べるものをより注意深く選んでいかなければならないのです。
母乳育児したいが母乳が出ない場合は
母乳育児にしたいと思っていても、乳房トラブルなどにより一時的に授乳できないことがあります。また、大きなストレスを感じると母乳が出なくなることもあるので、そのような時は粉ミルクをうまく活用するようにしましょう。
完全に母乳で育てたいという意思が強すぎると、母乳が出ないことを必要以上にダメなことに感じてしまいます。
お母さんの状態により、母乳の出が左右してしまう部分があるとはいえ、赤ちゃんにとって一番必要なのはお母さんとのコミュニケーションです。無理をせず、時には粉ミルクを活用して、無理をしないようにしましょう。
まとめ
母乳育児の良いことと悪いことについて幅広くご紹介しました。母乳を上げられる期間は限られていますし、初めての育児なら母乳育児を目指したくなるのは当然です。
しかしさまざまなトラブルもありますし、食生活やストレスを調整するのは大変です。大切なのは赤ちゃんとのコミュニケーションなので、母乳育児を完璧にしようとせず楽しく実行していけるようにしましょう。
それこそが、お母さんにとっても、赤ちゃんにとっても健やかな生活になるはずです。