赤ちゃの夜泣きやかんしゃくは、お母さんの悩みの種。これといった理由もなく夜になるとなぜか泣き始め、どんなことをしても泣き止んでくれない。かんしゃくが激しく上手くなだめられない、泣きながらひきつけを起こす、といったように、赤ちゃんの夜泣きやかんしゃくに悩むお母さんやお父さんは少なくありません。
おむつが濡れているわけでもなく、おなかがすいているわけでもない、熱もないし、痛いところもないようなのに、赤ちゃんが泣き止まないと、お母さんは精神的に追い詰められてしまいます。
このように赤ちゃんの夜泣きがひどいとき、頻繁にかんしゃくを起こすときに使われる言葉に、疳の虫があります。赤ちゃんの夜泣きやかんしゃくは疳の虫のせい。これは日本に昔から伝わる話で、お寺や神社では現在でも疳の虫退治の儀式を行っています。赤ちゃんの疳の虫について知っておきたいさまざまな情報を幅広くご紹介します。
赤ちゃんの疳の虫とは?
病気でも怪我をしたわけでもないのに、赤ちゃんの夜泣きやかんしゃくが激しい場合、赤ちゃんの疳の虫が強い、赤ちゃんの疳の虫が騒いでいる、などという言い方をします。赤ちゃんの夜泣きやかんしゃくが激しいのは、体の中にいる疳の虫のせい。実際に疳の虫という寄生虫や細菌がいるわけではありません。
この考え方は日本古来の民間伝承のようなもの。西洋医学が普及する以前には、お寺や神社で赤ちゃんの疳の虫封じの祈願や儀式が盛んに行われていました。現在ではあまり行われなくなったものの、疳の虫封じの儀式を行っている寺社はいまでもたくさんあります。
赤ちゃんの夜泣きやかんしゃくは疳の虫のせい?
生後半年頃から始まる赤ちゃんの夜泣きやかんしゃく。あまり症状がひどいとお世話をするお母さんは体力的にも精神的にも追い詰められてしまいます。
夜泣きやかんしゃくの症状があまりにひどいので、小児科病院で診察を受けたが、とくに問題は認められないという診断をもらい、薬も処方されなかった。
こんな状況に悩んでいると、周囲の人、とくに年配の方から、それは赤ちゃんの疳の虫のせいだから虫封じをしたほうがいいとの忠告を受けることがあります。
赤ちゃんの疳の虫はいつからいつまで?
疳の虫のせいとされる症状が起こるのは、一般的にいって生後半年から満2、3歳頃が多く、ほとんどの赤ちゃんは生後4歳頃までには症状が自然に無くなっています。
身体的・精神的に成長するにつれて、体力、抵抗力、免疫力が増し、それと同時に言語能力や表現力も発達しますので、自分の欲求や感情を上手に表現できるようになります。これにより夜泣きやかんしゃくを起こすことが自然に少なくなると考えられます。
疳の虫封じについて
疳の虫というのは昔から伝わる民間伝承、医学的な名称ではありません。とくに病気でもないのに赤ちゃんが延々と泣くことに対する説明として、体の中に疳の虫がいるせい、といわれているだけで、実際に疳の虫という寄生虫や細菌がいるわけではありません。
現代のように医学が発達していても、赤ちゃんの夜泣きやかんしゃくに即効性のある薬や治療法はありません。
各地で伝えられてきた疳の虫封じの儀式や祈祷には、不可解なもの、理屈で説明できないものから赤ちゃんを守りたい、という父母の願いが込められているのではないでしょうか?赤ちゃんの疳の虫封じはいったいどのような方法で行われるのでしょうか?
疳の虫封じの儀式とは?
疳の虫封じは、別名虫きり、虫出し、虫除けとも呼ばれ、現在でも各地のお寺や神社で行われています。お寺や神社で行われる疳の虫封じでは祈祷や祈願が行われ、疳の虫封じ用の護符がもらえます。
疳の虫封じが具体的にどのような方法で行われるかについては、お寺や神社によって異なります。祈願や祈祷以外にも、赤ちゃんの手の平や手指に塩入りの水や墨汁で梵字や真言を書き、洗い流すといった方法もあります。
また針灸院においても、赤ちゃんや幼児の疳の虫を改善する目的で小児はりを行うところもあります。これらの虫封じについては、これを単なる風習や古いしきたりと考える方もいます。
また実際に効くかどうかは別にして、お母さんやお父さんの精神状態を落ち着かせてくれる効果はあると考える方もいます。疳の虫封じを行うかどうかは、お母さんやお父さんの考え方次第といえそうです。
赤ちゃんの疳の虫の症状について
疳の虫のせいとされる行動ですが、もっとも多いのが夜泣きやかんしゃく。さらに激しく泣くと同時にひきつける泣き入りひきつけやけいれん、奇声をあげることなど。このような赤ちゃんの行動は通常一定の期間続き、その後成長とともに自然に消失していきます。
風邪を引いた、熱がある、下痢や便秘をしている、体調が悪いなど、原因がはっきりしている場合と違い、疳の虫のせいとされる症状は、病院で診察を受けても病気とは診断されません。そのため病院ではこれといった治療法は示されませんが、場合によっては漢方薬などが処方されることもあります。
疳の虫症状と小児神経症や発達障害
小児神経症とは脳や神経、筋に問題があり、運動・知能・感覚・行動などに障害がみられることを指します。発達障害とは、脳の働き方が特徴的であり、これにより日常生活を送る上で支障が出る状況をさします。疳の虫のせいとされる症状があるからといって小児神経症や発達障害があるわけでは決してありません。
ただし疳の虫のせいとされる症状の他に心配な症状がある場合には、専門医の診断を仰ぐようにしましょう。首のすわりの遅れ、手や足の動きがおかしい、頭の大きさやかたちに異常がある、意識を失う・意識がおかしいといった症状がある場合は、専門医に必ず相談するようにしましょう。※参考1
疳の虫のせいとされる症状の特徴や注意点について
疳の虫のせいとされる症状について、それぞれの症状が起こる状況や特徴、考えられる原因や対処方法などについて挙げてみましょう。
疳の虫封じを行ってもらうことが必要になるほど、赤ちゃんの夜泣き、かんしゃく、泣き入りひきつけはひどくなることもあります。それぞれの行動の特徴や起きやすい状況、注意点などを心得ておくことが必要です。
赤ちゃんの夜泣きについて
疳の虫によって起こるとされる典型的な症状が、赤ちゃんの夜泣き。昼間は機嫌良く、食欲もあり、元気そうにしているのに、夜になるとなぜか泣き出してしまう行動を指します。赤ちゃんの夜泣きは黄昏泣きとも呼ばれ、夕方から晩方、そして夜間に起こります。
起こる時期についてはそれぞれの赤ちゃんによって異なりますが、一般的には生後半年頃から始まり、満一歳半から2歳頃までには落ち着きます。夜泣きのピークは生後8ヶ月前後。程度に差こそあれ、夜泣きはほとんどの赤ちゃんが通過する典型的な行動です。
夜泣きの原因について
夜泣きの原因に関しては医学的にはっきり解明されていませんが、睡眠リズムがいまだ確立されていない事や、成長発達過程になんらかの原因があると考えられています。
赤ちゃんの昼夜のリズムが整いはじめるのは、生後5ヶ月頃から。昼夜のリズムがしっかりと確立されるまでは、睡眠と覚醒のパターンも乱れがちで、夜間の就寝時にすんなり寝入ってくれません。
また赤ちゃんの発達はめざましく、感覚・知覚・行動とすべての機能が一斉に発達を遂げています。赤ちゃんの夜泣きはその発達途中の一過程と考えられます。
夜泣きの対処方法について
赤ちゃんの夜泣きは原因が定かでないだけにその対処法にも苦労します。赤ちゃんの個性や発達の状態によっても夜泣きの程度は異なり、ほとんど夜泣きをせずに終わる赤ちゃんもいれば、夜泣きの状態が数ヵ月以上に及ぶこともあります。
夜泣きに対する有効な対処方法は、赤ちゃんひとりひとりの夜泣きの程度や月齢によって違ってきますので、いろいろな方法を試しながら、辛抱強く赤ちゃんの夜泣きが収まるのを待つしかありません。以下にいくつか対処方法を挙げてみましょう。
昼寝のタイミングや時間を工夫する
昼寝の時間を毎日規則正しくしてあげましょう。夕方になってもまだ昼寝をしているようでは、夜間の寝入りが悪くなってしまいます。昼寝をする時間とタイミングに注意し、夕方になる前に起こすよう努めましょう。
昼夜のリズムの定まっていない赤ちゃんの生活は、母乳・ミルクを飲むことと眠ることで占められています。赤ちゃんの成長とともに昼夜のリズムは、体の内側から徐々に整っていきますが、赤ちゃんの生活リズムを規則的にしてあげることも大切。毎日同じ時間に同じことを繰り返すことにより、昼夜のリズムを含めて生活リズムが整っていきます。
入眠儀式を取り入れる
夜間の就寝前に毎日同じことを行うようにしましょう。眠くなるような穏やかな音楽を聞かせる、お母さんが一緒に添い寝する、授乳を行ってから寝かせつける、沐浴や入浴を行ってから寝かせる、赤ちゃんのお気に入りのおもちゃを与える、など毎日同じことを繰り返すことにより、眠りにつきやすくなります。
部屋の環境を整える
赤ちゃんのいる部屋の環境をできるだけ快適に整えてあげましょう。照明は落とし、静かな環境を作ってあげるようにします。
室内の温度と湿度にも配慮し、赤ちゃんが快適に過ごせるよう工夫します。室温が高すぎると赤ちゃんはかえって眠りにつきにくくなりますので、暖房は控えめにしましょう。
赤ちゃんのかんしゃく
赤ちゃんのかんしゃくも疳の虫のせいにされることが多い行動です。どんな赤ちゃんでも自分の思い通りにならないときに泣いたり、暴れたりすることはありますが、疳の虫のせいとされるかんしゃくは、その度合いが激しく、お母さんやお父さんが宥めることのできない状況を指します。
床や壁を叩きながら激しく泣き叫ぶ、甲高い声で叫ぶ、物を投げつける、お母さんやお父さんやお友達を叩く・噛む、床に寝そべってジタバタ手足を動かす。このような行動が典型的な赤ちゃんのかんしゃくで、満1歳から2歳頃の赤ちゃんによく見られます。
赤ちゃんのかんしゃくの原因とは?
かんしゃくの原因は、赤ちゃんが自分の意思や欲求をうまく表現できないためにフラストレーションを感じることや、物事が自分の思い通りに運ばないことへの不満にあるかと思われます。
赤ちゃんは成長とともに、語彙や表現力がぐんぐんつき、自分の気持ちや欲求をお母さんや周囲の人にうまく伝えられるようになりす。
言語力の発達に加えて、赤ちゃんが社会性を身につけることにより、かんしゃくは自然に改善されていくパターンがほとんど。かんしゃくも赤ちゃんの発達の一段階と捉え、焦らずじっくり対応することが求められています。
赤ちゃんのかんしゃくの対処方法
赤ちゃんが外出先でかんしゃくを起こすとお母さんはとても困ります。かんしゃくを起こす赤ちゃんに対して、おやつや欲しがるものを与えることで、ついその場を乗り切ってしまうお母さんも多いのが現実ですが、これは望ましくありません。
できれば控えるようにしましょう。かんしゃくを起こす赤ちゃんの言いなりになってしまうと、赤ちゃんのかんしゃくは習慣化してしまうおそれがあります。
赤ちゃんの言いなりにならないようにする
赤ちゃんの我侭や理不尽な要求に対して、必要以上に譲歩するのはやめましょう。赤ちゃんがかんしゃくを起こすたびに言いなりになるのは、赤ちゃんのためにもなりません。かんしゃくの程度をひどくするだけでなく、マナーや基本的な決まりを覚える妨げになります。
赤ちゃんに理解できる範囲で構いませんので、良いことと悪いことの違いを言い聞かせるようにしましょう。
赤ちゃんとのスキンシップを大切に
赤ちゃんの表現力は未熟で、自分の気持ちやしたいこと・してもらいたいことをうまく言葉で表現できません。
自分の気持ちをうまくお母さんに伝えられないもどかしさから、かんしゃくを起こす赤ちゃんもいます。赤ちゃんの言うことには常に耳を傾け、しっかり抱きしめてあげることが赤ちゃんの情緒安定につながります。
赤ちゃんの泣き入りひきつけ
泣き入りひきつけとは、激しく泣いたことにより息つぎができなくなり、無呼吸の状態になることを指します。泣き入りひきつけは憤怒ひきつけとも呼ばれ、生後半年頃から2、3歳の間に起こることが多く、4、5歳になる頃には自然に無くなります。
急に驚いたり、怒ったりすることで泣き出し、息つぎができなくなった結果、顔色が青白くなったり、けいれん、手足および全身の脱力、意識を失ったりするこわい症状ですが、通常すぐに呼吸が戻りますので、あまり心配する必要はありません。驚く、怖がる、怒るといった出来事をきっかけに泣き出すことで起こります。
泣き入りひきつけの対処方法とは?
泣き入りひきつけの程度がひどく、起こる回数が多い場合には小児科医に相談するようにしましょう。泣き入りひきつけは障害が残ることもなく、成長につれて自然に治っていきますので、不安がらずに落ち着いて対処することが大切です。
泣き入りひきつけを完全に予防することは困難ですが、泣き入りひきつけを起こしそうな状況を前もって回避するよう、お母さんやお父さんが注意してあげましょう。実際に起こってしまったときには慌てず落ち着いて様子を見守ります。頻繁に起こって不安な場合は、対処法や薬の服用などについて小児科医に相談したほうが安心です。※参考2
疳の虫に関する言い伝え 眉の間の青筋
眉と眉の間から鼻筋にかけて、青く血管が走っているのが見える赤ちゃんがいますが、このように眉間に青筋が立っている赤ちゃんは癇癪持ちという言い伝えがあります。
おじいちゃんおばあちゃんに言われて、嫌な気持ちになったお母さんも少なくありません。実際は赤ちゃんの皮膚は大人よりも薄く、特に鼻筋は脂肪がつきにくい部分ですから、元々血管が見えやすい状態であり、癇癪が強いかどうかは全く関係がありません。
赤ちゃんが成長するにつれて、皮膚は厚くなり血管が見えなくなりますから、周りから何か言われたとしても気にしないのが一番。ただ、赤ちゃんが大きくなっても変わらず残っていたり、広範囲に広がってあざのように見える場合は、一度病院に相談してみましょう。
まとめ
赤ちゃんの疳の虫について知っておきたい情報をご紹介しました。赤ちゃんの夜泣きやかんしゃくはほとんどの場合、病気ではなく、赤ちゃんの発達の一過程で起こる一過性の症状。体力がつき、精神的にも大きく成長する4歳ごろになると、赤ちゃんの疳の虫の症状は収束していきます。
赤ちゃんの夜泣きやかんしゃくはお母さんにとって悩みの種ですが、お母さんやお父さんがさきに平常心を失い、忍耐力を切らしてしまっては、赤ちゃんの疳の虫は改善されません。赤ちゃんの疳の虫はいずれは必ず落ち着きますので、赤ちゃんの成長を暖かく見守るつもりで忍耐強く付き合ってあげましょう。
※参考1:一般法人日本小児神経学会
※参考2:一般法人日本小児神経学会 泣き入りひきつけ