完全母乳(完母)について知っておきたいこと

完全母乳について知っておきたいこと 赤ちゃん 食事

赤ちゃんを育てていくとき、必ず出てくるのが授乳スタイルの選択です。母乳で育てるか、ミルクで育てるか、それとも母乳とミルクの混合かで迷われているお母さんも多いことでしょう。

近年、母乳の重要性が見直されてきたことから、産婦人科でも母乳を推奨するところが増えてきました。母乳だけで赤ちゃんを育てあげる「完全母乳」も、当たり前となってきています。

さまざまな育児書やマタニティ本で完全母乳が推奨されていることから、「産んだら完全母乳で育てよう!」と固く心に決めている方もいらっしゃるのではないでしょうか。

確かに完全母乳は素晴らしいことですが、さまざまなメリットやデメリットも知った上で、選択することが大切です。そこで、完全母乳についての情報を幅広く、詳しくご紹介していきましょう。

目次

完全母乳とは?いつから

完全母乳とは?いつから

完全母乳とは、赤ちゃんが産まれてから授乳を卒業するまで、母乳だけで育児をする方法のことを言います。ミルクを与えず、全て母乳にするため「完全母乳」と言われているのです。最近では完全母乳という言葉が浸透し、略して「完母」と言われることも多くなりました。

産後おっぱいの出が悪い場合は、生後1~2ヶ月程度で混合授乳から完全母乳へ切り替えるスタイルも増えています。

完全母乳にはたくさんのメリットもありますが、その反面デメリットも存在します。何となく完全母乳が良さそうだからと安易に決めず、しっかりと理解したうえで取り組むようにしましょう。

初乳の重要性

初乳の重要性

母乳は赤ちゃんが必要としている栄養や免疫が含まれているため、完全栄養食とも言われています。特に、出産した直後から産後1週間くらいの期間に出る「初乳」には、濃度の高い栄養と、免疫が含められているため、ミルク育児を考えている方も最初の数週間は母乳を与えた方が良いと言われています。

初乳の色は、黄色っぽいクリーム色をしていて、赤ちゃんがお腹の外で生きていくために必要な免疫や栄養がギュッと詰まっているのです。授乳を続けていくと、色は徐々に黄色っぽさを無くしていき、初乳ではなく通常の母乳として出てくるようになります。

母乳を薦める理由

母乳を薦める理由

完全母乳が推奨され、多くの方に支持されるようになっているのは、母乳の良さが改めて見直されるようになったからです。母乳にしか含まれない免疫が含まれていますし、母乳を与えることで乳幼児突然死症候群(SIDS)を防ぐ効果もあると言われています。

パーフェクトな調合

パーフェクトな調合

母乳の成分は、不思議なことに赤ちゃんが必要としている栄養や免疫を瞬時に判断し、最適な調合で分泌されるため、母乳はいつでも赤ちゃんにとってパーフェクトな状態になる仕組みとなっています。

予定日よりも早く生まれた低体重の赤ちゃんに分泌される母乳と、生後1ヶ月を過ぎた母乳は、全く同じものではないのです。これと同じことをミルク育児で行うことは、ほぼ不可能に近いと言えます。

赤ちゃんは言葉を離したり意思表示したりすることができないため、自然と調整してくれる母乳の機能は素晴らしいと言えるでしょう。

吸収しやすい

母乳に含まれている栄養は、ミルクに含まれている栄養に比べると、赤ちゃんに吸収しやすい状態になっています。同じカルシウムでも、ミルクより母乳の方が赤ちゃんの身体に取り込まれやすいのです。そのため、ミルクを飲むと消化に時間がかかりますが、母乳は消化の時間が短く早くエネルギーに変わることができます。

母乳が出るしくみ

母乳が出るしくみ

完全母乳が推奨されていますが、母乳はどのようにして分泌されるものなのでしょうか。

母乳は、赤ちゃんが乳頭を加えて初めて作られ押し出されていきます。赤ちゃんが乳頭を加えると、その刺激が脳につたわり、プロラクチンというホルモンを分泌させ母乳を作り出します。そしてオキシトシンというホルモンを分泌させ、乳管から乳頭へと母乳が押し出され赤ちゃんへと運ばれていくのです。

ちなみに、母乳はお母さんの血液から作られています。母乳が血液のように赤くないのは、赤い色素が乳管の組織を通過しないからです。だからこそ、お母さんは食べるものや体調を整えて、質の良い血液を常に作り出す必要があります。

完全母乳と混合とミルクの分かれ道

完全母乳と混合とミルクの分かれ道

完全母乳をしたいと思っているけれど、赤ちゃんが産まれてからすぐに母乳がどんどん出るお母さんはほとんどいません。なぜなら、初めて母乳を作り出すため、乳管が詰まっていたり発達しきれていなかったりするからです。

また、産まれたばかりの赤ちゃんは、まだおっぱいを吸うのが上手ではないため、乳頭を加えても刺激が弱く母乳を吸い出すことができないことも関係しています。

母乳の出は、授乳の回数を重ねるにつれて徐々に増えていきますが、それまで待てずに混合にしたりミルクに切り替えたりするお母さんもいらっしゃいます。

産後、最初の1ヶ月位は母乳が出にくい状態が続きますが、根気よく赤ちゃんに吸ってもらうことで徐々に安定してきますので、早々に諦めないようにしましょう。

完全母乳を途中で挫折 差し乳?たまり乳?

完全母乳を途中で挫折 差し乳?たまり乳?

完全母乳を途中で挫折してしまう方の中には、「胸が張らないから母乳が出ていない」と勘違いしている方もいらっしゃいます。

実は、お母さんの乳房には2種類あり、胸が張らなくても赤ちゃんに吸われたらちゃんと母乳が出てくる「差し乳」タイプの乳房と、常に母乳が生産されて貯蔵され胸が張ってしまう「たまり乳」タイプの乳房があるのです。

差し乳タイプの乳房の場合、胸が張らないため母乳の出が悪いと思い込み、ミルクをプラスして混合にしたり、ミルクに切り替えたりしてしまうのです。

見た目では、赤ちゃんがどれくらい飲んだかわからないので、授乳前と授乳後の赤ちゃんの体重を測り、しっかり飲めているようなら問題ないでしょう。

完全母乳のメリットについて

完全母乳を行うことは、たくさんのメリットがあります。具体的にどのようなメリットがあるのか、詳しくご説明していきましょう。

赤ちゃんの健康を守ることができる

赤ちゃんの健康を守ることができる

母乳には、たくさんの免疫と栄養が詰まっていますし、その時の赤ちゃんの状態に必要な母乳が分泌されるため、完全母乳にすることで赤ちゃんの健康を守ることができます。

免疫物質を摂取できることから、細菌やウィルスに感染しにくくなりますし、統計的に乳幼児突然死症候群(SIDS)やアレルギーも完全母乳で育てた赤ちゃんの方が、発生の確率は低いとされています。

アゴの力が発達する

アゴの力が発達する

赤ちゃんが母乳を飲むためには、乳頭を刺激して生産された母乳を吸い出す必要があります。舌やアゴの力をしっかり使わなければ母乳を飲むことができないため、自然とアゴの力を身に着けることができるようになります。アゴの力が身につくことで、離乳食の時に飲み込んだり噛んだりする力が、自然と行いやすくなります。

哺乳瓶だと少しの力で簡単にミルクを飲むことができるので、アゴの発達が弱くなる傾向が強まります。ミルク育児と比べると、完全母乳の方が40倍もアゴの力を使っているのです。

精神的に安定する

精神的に安定する

赤ちゃんが母乳を飲むとき、お母さんと赤ちゃんの肌はピッタリとくっつき、お互いの体温や呼吸も身近に感じることができます。母乳を通じてお母さんを感じることで、赤ちゃんはお腹だけでなく心も満たされ、安定しやすくなるのです。

また、赤ちゃんに母乳を与えることで、お母さんの気持ちも安定しやすくなり、育児ノイローゼや産後鬱を防ぎやすくなると言われています。

産後の回復が早まる

産後の回復が早まる

完全母乳にすることで、お母さんの身体にもたくさんのメリットが生じるようになります。まず、産後の回復が早まります。赤ちゃんに母乳を与える時、母乳を作るプロラクチンや、母乳を押し出すオキシトシンというホルモンが分泌されますが、これらのホルモンは子宮を収縮させる作用があるため、早く悪露を出して子宮を回復させる効果があるのです。

お母さんの子宮は、出産直後お臍の辺りまで縮みますが、その後1ヶ月~2ヶ月かけて元の大きさへと縮んでいきます。そのスピードが早まるため、身体の回復もスムーズに進みやすくなるのです。

ガンの可能性が減る

ガンの可能性が減る

完全母乳にすることで、お母さんが将来、卵巣ガン、子宮ガン、乳ガン、にかかりにくくなると言われています。母乳を与えるときに分泌されるプロラクチンやオキシトシンは、卵巣が卵子を排卵させることをストップさせるため、母乳を与えている期間は卵巣も子宮もゆっくり休むことができます。

また、母乳をたくさん与えることで、乳腺の通りもスムーズになることも乳ガンの予防に役立っているのでしょう。

産後の体重が減りやすい

産後の体重が減りやすい

完全母乳にすることで、産後の体重が元に戻りやすくなると言われています。母乳を与えることは、お母さんが身体に取り込んだ栄養を赤ちゃんに与えるということですので、妊娠中に蓄積された栄養や脂肪も、母乳に変換されやすくなるのです。

ミルク育児で育てた方と、完全母乳で育てた方を比べると、産後の体重や体型が戻るスピードや確率は完全母乳の方が優れているため、産前の状態に早く戻したいという方は、完全母乳がオススメです。

費用がかからない

完全母乳にすることで、育児にミルク代がかからなくなります。ミルク育児の場合、粉ミルク、哺乳瓶、消毒用器具などが必要になるため、意外と出費がかさんでしまいます。

しかし、完全母乳ならミルクにかかる費用はゼロで済むため、余計な費用を削減することができるでしょう。

母乳だと外出がラク

外出がラク

完全母乳にすることで、ミルク育児と比べると外出が楽になります。外出先でミルクを与える場合、哺乳瓶、粉ミルク、ミルクを溶かすお湯、湯冷ましのお水を用意しなくてはなりません。オムツやティッシュなどでかさむ荷物の中に、ミルクもプラスするとなるとカバンはパンパンに膨らんでしまいます。

しかし、母乳ならミルクグッズを持つ必要がありませんし、赤ちゃんが泣き始めて慌ててミルクを作る必要もないため、気楽に外出しやすくなります。

完全母乳のデメリット

完全母乳にはたくさんのメリットがありますが、その一方でデメリットもあります。どちらの意見も参考にしていただきたいので、ご紹介しておきましょう。

授乳回数が多い

授乳回数が多い

母乳はミルクに比べると消化が早いため、1日に8回~15回ほど授乳が必要になることもあります。夜中に何度も起こされますし、赤ちゃんを抱っこすることで体力も奪われるため、産後疲れた体にさらに疲労が蓄積されてしまいます。人によっては、授乳がプレッシャーに感じるようになることもあるでしょう。

人目が気になる

人目が気になる

完全母乳にすると、どこでも赤ちゃんが欲しがったら母乳を与える必要があるため、公共の場所でも授乳しなければならない時があります。授乳室がない場合、ケープで隠しながら授乳しなければならないため、それを負担に感じる場合があるでしょう。

くる病やビタミンD欠乏性低カルシウム血症の可能性

母乳は栄養がたっぷり含まれていますが、唯一不足しているのがビタミンDです。これが不足すると、くる病、けいれん、ビタミンD欠乏性低カルシウム血症を引き起こす可能性があります。

ビタミンDは、日光浴すると体内で生成されるため、完全母乳の方は赤ちゃんを適度に日光浴させることを忘れないようにしましょう。

1人の時間が取れない

1人の時間が取れない

完全母乳にすると、常に赤ちゃんと一緒にいなければならないため、1人になる時間がほとんどなくなりストレスが溜まりやすくなってしまいます。最近は、搾乳機も発達していますし、冷蔵や冷凍で母乳も保存できるようになっていますが、哺乳瓶を嫌う赤ちゃんだとなかなか受け付けてくれない場合もあります。

お母さん以外の人に預けられないため、働く時間も自由な時間も取りにくくなってしまうでしょう。

飲んだ量がわからない

飲んだ量がわからない

完全母乳にすると、赤ちゃんがどれくらい飲んでいるかわからないため不安になってしまうことがあります。

授乳前後の体重を測ることで予測することができますが、目視できない不安が続いてしまうこともあります。1ヶ月健診までに出生時の体重にプラス600gあれば十分ですが、不安な場合は医師に相談すると安心です。

仕事の復帰で完母は可能なのか?

仕事の復帰で完母は可能なのか?

仕事復帰の予定があるけれども、出来るなら完母を続けたいと言う方もいるでしょう。完母可能かどうかは、仕事復帰がいつなのかで授乳方法が変わります。

産後2・3ヶ月で仕事に復帰するのならば、搾乳して冷凍保存し保育園で飲ませるようにお願いできますし、離乳食が始まった頃ならば昼間だけミルクにするというパターンもあります。

また、1歳前後で保育園に預けるのならば、思い切って断乳するという方法もあります。もちろん赤ちゃんの授乳パターンや仕事内容や体調・保育園の方針など様々ですから、自分と赤ちゃんにあった方法を選びましょう。

完全母乳は生理再開が遅くなる?次の妊娠いつ?

完全母乳は生理再開が遅くなる?次の妊娠いつ?

「完全母乳は生理再開が遅くなる」という話は皆さんよくご存知のことでしょう。ミルクをあげているお母さんの生理再開は3~5ヶ月と早いのに対し、個人差がありますが完全母乳のお母さんの生理再開は7ヶ月~1年以上とかなり遅い時期に始まることが多いです。

また、母乳をあげている間は排卵を抑えるオキシトシンが分泌されていますから、生理再開になったとしても最初のうちは排卵が起きていないことも少なくありません。

ただ、オキシトシンは母乳生成を促す働きがありますから、授乳回数を控えることで排卵や生理を促すことが出来ます。生理がいつ来るかは専門家でも分かりませんから、あせらずに待つようにしてください。

ここまでのまとめ

完全母乳について詳しくご紹介しました。完全母乳にはたくさんのメリットやデメリットがあることがお分かりいただけたと思います。どちらの意見も参考にすることで、完全母乳にすべきかどうか検討するようにしましょう。

ただ、完全母乳にしたいと思っていても、思うように母乳が出ないこともありますから、そんな時は固く考えず臨機応変に対応するようにしましょう。赤ちゃんとお母さんのためにも、よりよい授乳方法を模索していってください。

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