搾乳とは母乳を自分で搾ること。母乳で育児をする方にとって、母乳の分泌を維持していくためには搾乳を行うことが欠かせません。理想的には、母乳の分泌量と赤ちゃんの飲む量が一致していることが望ましいのですが、必ずしもそのとおりにいくとは限りません。
赤ちゃんの体調や月年齢によっては、母乳を飲んでくれる量が少なく、搾乳をしなければ、胸が張って痛みを感じるだけでなく、乳腺炎のリスクもあります。
母乳による育児を続けたい方にとって、母乳トラブルは悩みの種。搾乳の正しいやり方や注意点を心得ておくことは非常に重要です。搾乳について知っておきたいさまざまな情報を幅広くご紹介します。
搾乳とは?どんな時に行うべきか?
搾乳とは母乳を自分で搾り、必要であれば保存しておくこと。母乳で育児をしているからといって、搾乳を行う必要がないとは言えません。
たとえば赤ちゃんの飲む量に比べて、母乳の出が多い場合や、赤ちゃんが新生児集中治療室(NICU)に入院しているために、搾乳して母乳を届ける場合、乳首に傷があり赤ちゃんにそのまま授乳することができない場合など、搾乳しなければならない場面は数多くあります。
また母乳の出が少ない場合にも搾乳は必要です。以下にどんなときに、搾乳を行うべきか、まとめてみました。
母乳分泌過多の場合
赤ちゃんが飲んでくれる以上の母乳があるのにそのままにしておくと、乳房の張れや痛み、発熱や乳腺炎のリスクが生じます。母乳に関する悩みというと、母乳の分泌過少を思い浮かべますが、これとは反対に母乳分泌過多で悩む女性も少なくありません。
母乳パッドを入れてもすぐに替えなければならない方は、母乳分泌過多の疑いがあります。母乳分泌過多のなると、授乳後も胸に残乳感が残って痛みや不快感を感じます。
赤ちゃんの飲む量が少ないとき
また母乳の分泌量は正常でも、生まれたばかりの赤ちゃんの飲む量は少なく、分泌された母乳が余ってしまいます。
通常、生後2、3ヶ月目になると、赤ちゃんの飲む量も増え、母乳の「需要」と「供給」が釣り合ってきますが、それでも残乳感を感じる場合は、搾乳が必要です。
乳首に傷がある場合など
陥没乳頭や扁平乳頭の方は、授乳中に赤ちゃんの吸う力により、乳首に傷ができやすくなります。赤ちゃんに授乳することにより出来た傷により、激しい痛みが生じ、授乳をすることが難しくなる場合があります。
この場合、搾乳した母乳を哺乳瓶で飲ませることにより、直接授乳する回数を減らすことが出来ます。母乳育児はやめたくないけれども、痛みが激しくしばらく授乳は無理。こんな場合も、搾乳した母乳を保存し、赤ちゃんに与えることで、母乳育児を続けることが出来ます。
赤ちゃんを預ける場合
出産後すぐに職場に復帰しなければならずに、赤ちゃんを保育園などに預ける場合、事情があり昼間家族に赤ちゃんを預けている場合なども、搾乳を行う必要があります。
また赤ちゃんが、病気や怪我でNICU(新生児集中治療室)への入院を余儀なくされたときにも、搾乳しなければなりません。
お母さんが授乳中は服用できない薬を内服しているとき
大多数の薬は授乳中にお母さんが服用しても、赤ちゃんへの悪影響はないといわれていますが、中には授乳中の服用は避けるべき薬もあります。
授乳中に服用することのできない薬については、産婦人科で必ず確認してから内服するようにしましょう。
母乳の出が悪いとき
赤ちゃんに授乳することをやめると、お母さんの体は母乳を作る必要がなくなったと認識してしまい、母乳の分泌を減らしたり、ストップしたりすることがあります。母乳は赤ちゃんに飲まれることにより、更なる分泌が促されます。
また母乳の分泌量を安定させるためにも搾乳は効果的。母乳の出が安定していないと感じられる場合にも、搾乳を行うことで、母乳を分泌を安定させることが出来ます。
搾乳の仕方・方法について
搾乳には二つの方法があります。ひとつは自分自身の手で行う方法、もうひとつは搾乳器を使って行う方法。どちらの方法にもメリット・デメリットがありますので、搾乳を行う前にはまず、両方の方法について詳しく知っておくようにしましょう。
手で搾乳する方法
搾乳器を使わずに手で搾乳する方法について、その手順ややり方などを説明してみます。母乳の量など個人差がありますから目安として参考にしてください。搾乳が初めての方にとっては、最初はちょっと難しく感じられるかもしれませんが、正しいやり方を覚えて、実際に実践するうちに上手に出来るようになるはずです。
親指と人差し指を使って搾乳する
搾乳したいおっぱいの下あたりに、母乳を受け止める容器を用意し、(搾乳するおっぱい側の)手で支えておきます。反対側の手の親指と人差し指でアルファベットのCを形作り、乳輪の外側を押さえるようにします。このとき乳頭を押さえないよう、注意してください。
次に乳輪の外側は指で押さえたままで、親指と人差し指を使って乳頭に向かって、つまむようにはさんでいきます。このとき一方向だけ力を加えると、あとでしこりが出来る原因になりますので、いろんな角度から満遍なく力を加えるようにしましょう。
搾乳のコツ
乳頭はデリケートな場所で傷つきやすいので、つまんでしまうことのないよう気をつけましょう。乳輪から乳頭に向かってはさむように、乳腺を刺激することで搾乳を行います。乳輪の周り360度すべての角度から母乳を出すつもりで行います。
搾乳する際には、母乳を受け止める容器と胸の間にガーゼをはさむようにしましょう。また搾乳している側のおっぱいではなく、反対側のおっぱいからも母乳が出ることがありますので、反対側のおっぱいにもガーゼやパッドを当てておくと安心です。
左右交互に搾乳する
搾乳は片方のおっぱいだけでなく、左右両方を交互に搾乳します。あまり時間をかけすぎずに、左右交互にそれぞれ7回から8回くらいづつ、出来れば20分から30分程度ですべて終了するようにします。
搾乳を行う回数と間隔
搾乳を行う回数の目安は、一人一人の赤ちゃんとお母さんの状況、そして搾乳をする目的によって異なります。赤ちゃんを預けて働いている方の場合、3時間から4時間おきに搾乳するようにしなければ、胸がぱんぱんに腫れてしまいます。
授乳しながら搾乳する場合には、様子を見ながら搾乳の間隔と回数を決めるようにします。母乳の分泌と赤ちゃんの飲む量との釣り合いが取れている方でも、授乳後になんとなく残乳感を感じる場合には搾乳を行い、母乳を保存しておくと、いざというときに必ず役に立ちます。とりあえず保存する必要はなくても、完全母乳での育児を目指している方は、搾乳で母乳を保存してほうが安心です。
差し乳の方の場合
搾乳というと「溜まり乳」の方のするもの、と思っている方もいるかもしれませんが、差し乳の方が搾乳を行うのは無理なのでしょうか。
溜まり乳と差し乳とは?
溜まり乳とは授乳してもすぐに胸が張ってきて、母乳が溜まっていく場合を指します。
差し乳とは、授乳時間を空けても胸が張る感じや痛みがなく、赤ちゃんがおっぱいを飲み始めると母乳が出てくる場合を指します。
溜まり乳の方は搾乳を規則的に行わなければ、胸がぱんぱんに張って痛みを感じますが、差し乳の方は胸が張らないため、搾乳の必要はあまり感じません。授乳の回数が平均的で、直母で赤ちゃんがおなかいっぱい母乳を飲めている分には、何も問題ありませんが、授乳の回数を減らしてしまうと、母乳の分泌量が減ってくるおそれがあります。
差し乳の搾乳
差し乳の方でも搾乳が出来ないわけではありません。授乳と授乳の間に搾乳をするとあまり母乳が出ない場合は、直母を行う直前に搾乳することも考えてみましょう。
左右両方から交互に搾乳しても、一回分の授乳量に満たない場合は、数回分をまとめて保存します。差し乳なので搾乳は必要ないと考え、授乳の回数を減らしたり、授乳と授乳の間に時間を空けすぎると、母乳の出が悪くなってしまいます。
搾乳器で行う場合
搾乳器とは搾乳専用に作られた用具を指します。搾乳器には手動と電動の二種類があり、それぞれメリット・デメリットがあります。手で搾乳すると手に痛みや違和感を感じる方や、職場や外出先で時間をかけて何度も搾乳することが無理な方には、搾乳器での搾乳をお勧めします。
以下に手動と電動搾乳器のメリットとデメリットについて挙げていきましょう。
手動搾乳器の特徴
手動搾乳器とはハンドルを握る・離すことにより吸引を行う器具で、3,000円程度と価格的にお手頃なのがポイントです。手動搾乳器は自分でハンドルを操作しなければならないので面倒といえば面倒ですが、そのかわり、自分の体の状態に合わせて、無理なく吸引を行うことが出来ます。電動に比べると部品も少なく、お手入れが簡単というメリットもあります。
搾乳が終わるまで、自分の手でハンドルを動かさなければならないので、搾乳にかなり時間がかかることもあります。
電動搾乳器の特徴
電動搾乳器のポイントはボタンひとつで自動的に搾乳してくれること。面倒がなく、手早くさっと行えるのがメリットです。電源も電池式とACアダプターの両方が備わっているものもありますので、いつでもどこでも時間になったら搾乳できるので便利です。
電動ですのでもちろん吸入圧の調整が可能。メーカーや機種によって、調整度数の段階は異なりますが、多いものでは9段階まで調整できます。
ただし乳頭の敏感な方にとっては、もっとも弱い圧力でも刺激が強すぎる場合がありますので、最初は弱い圧力から始めるようにしましょう。
手による搾乳と搾乳器、どちらがいい?
搾乳器を使うと乳頭にダメージがある、という話も聞きますが、これはすべての方に当てはまるわけではありません。
たとえば腱鞘炎で手による搾乳が無理な方や、搾乳の回数が非常に多い方などは、搾乳器を使ったほうが安心です。手による搾乳と搾乳器による搾乳、どちらがよいかはお母さんと赤ちゃんの状況次第になります。
加減がわからない?搾りすぎ?
溜まり乳のお母さんにとって搾乳のしすぎは逆効果、という話を聞いた方も多いでしょう。赤ちゃんが吸う吸わないに関係なく母乳を生成するので、搾乳しすぎて乳管が空になると、満たそうとして搾乳した以上に母乳が作られてしまうのです。
しかし搾乳の目安は個人で大きく異なるため、どれくらい搾ったらよいのか分からないですよね。そんな時は搾乳量ではなく、自分の気持ちをチェック。乳房がパンパンに張った状態が少し柔らかくなって、楽になった・ある程度スッキリしたと思えるくらいがちょうど良い搾乳量です。
母乳量を安定させる目的の搾乳ならば空になるまで搾乳するのもアリですが、飲み残しやパンパンの乳房を軽くする目的の搾乳ならば、搾りすぎには注意しましょう。
搾乳で出した母乳の保存方法
搾乳で取り出した母乳の保存方法ですが、1時間程度であれば常温に置いても構いませんが、それ以上は冷蔵庫で保存するようにしましょう。冷蔵庫で保存する場合でも、飲ませられる時間の目安は一日程度。それ以上保存する場合は冷蔵庫ではなく、冷凍庫で保存しなければなりません。
冷凍保存の場合
冷凍保存の母乳の使用期限は3ヶ月程度が限度といわれていますが、冷凍庫での保存状況によっては、もっと早く飲みきる必要があります。たとえ冷凍保存してあるとしても、扉近くに入れていると、冷凍庫の開け閉めの際に質が低下することは避けられません。冷凍保存のものも数週間から一ヶ月程度をめどに飲ませるようにしましょう。
新しいものから飲ませる
保存容器は母乳専用のものを用意し、常に清潔な状態に保ってください。冷蔵庫・冷凍庫で保存する場合には、搾乳した日付を必ずメモしておきましょう。古くなってしまった母乳は廃棄し、新しいものを飲ませるようにしてください。
母乳専用の母乳パックを利用する
搾乳した母乳の保存には、市販されている専用の母乳パックが便利です。サイズは製造メーカーによって異なりますが、容量は40mlから200mlまで、たくさんの種類がありますので、赤ちゃんの月齢によってもっとも適当なサイズを選ぶことが出来ます。
母乳パックを選ぶ際にポイントにしたいのは容量だけではありません。市販の母乳パックは、授乳中のお母さんにとって使い勝手のいいように、さまざまな工夫がなされています。安全性を確保するために減菌処理・殺菌処理のされているもの、搾乳器に取り付けてそのまま入れることの出来るもの、容量の異なるパックがセットされているものと、母乳だけでなく離乳食も保存できるもの、用途や使う頻度、赤ちゃんの飲む量などに応じて選ぶ楽しみもあります。
保存しておいた母乳を温める際の注意
冷凍保存しておいた母乳は自然解凍か流水で解凍します。電子レンジを利用すると、成分が変化してしまいますので、絶対に利用しないようにしてください。また50℃以上の熱湯で温めるのもNGです。冷凍していたものは解凍し、そのあとゆるめのお湯で湯せんにかけて温めます。
まとめ
搾乳に関して知っておきたいことをポイントごとに詳しくご紹介しました。搾乳は手間がかかり面倒ではありますが、これを行うことにより、母乳の出を安定させたり、乳腺炎のリスクを減らすことが出来ます。
搾乳は母乳育児を行う方にとっては、絶対に欠かせない重要な作業。搾乳を行う前に正しいやり方や押さえておくポイントなどについてしっかりと学んでおくようにしましょう。